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札幌高等裁判所 昭和51年(ラ)3号 決定

抗告人

西村鶴吉

右代理人

熊谷義郎

相手方

有限会社門間林産業

右代表者

門間賢司

右代理人

岡昌利

主文

原決定を取消す。

有限会社門間林産業の本件異議申立を却下する。

本件異議申立費用及び抗告費用は、すべて相手方の負担とする。

理由

一本件抗告の理由は、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。

二よつて、審案するに、先ず、頭書の競売事件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  渡島信用金庫(競売申立債権者)は、昭和四四年七月三一日、有限会社門間林産業との間で、手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越等の信用金庫取引契約を締結し、右同日、門間栄子との間で、右取引に基づいて生ずる有限会社門間林産業の債務を担保するため、門間栄子所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「本件土地」という。)について、元本極度額金三五〇万円、利息日歩三銭以内、損害金日歩五銭とする根抵当権設定契約を締結し、函館地方法務局同年八月二五日受付第二二五三九号をもつて、順位一番の根抵当権設定登記を経由した。次いで、渡島信用金庫は、昭和四五年六月二〇日、門間栄子との間で、さきに締結した根抵当権設定契約で定めた元本極度額を金一、三〇〇万円とする極度額変更契約を締結し、同法務局昭和四五年七月一三日受付第一八六四二号をもつて、一番根抵当権変更登記を経由するとともに、さらに、昭和四六年七月三〇日、門間栄子との間で、さきに変更した元本極度額を金二、六〇〇万円とする極度額変更契約を締結し、同法務局昭和四六年八月二四日受付第二四〇六七号をもつて、一番根抵当権変更登記を経由した。

(二)  渡島信用金庫は、昭和四五年六月二〇日、門間栄子との間で、昭和四四年七月三一日締結の信用金庫取引契約によつて有限会社門間林産業が渡島信用金庫に対し負担する債務を担保するため、門間栄子所有の別紙物件目録(二)記載の建物(以下、「本件建物」という。)について、元本極度額金三五〇万円、利息日歩三銭以内、損害金日歩五銭とする根抵当権設定契約を締結し、同法務局昭和四五年七月一三日受付第一八六四一号をもつて、順位一番の根抵当権設定登記を経由したうえ、昭和四五年六月二〇日、門間栄子との間で、元本極度額を金一、三〇〇万円とする極度額変更契約を締結し、同法務局昭和四五年七月一三日受付第一八六四二号をもつて、一番根抵当権変更登記を経由し、さらに、昭和四六年七月三〇日、門間栄子との間で、さきに変更した元本極度額を金二、六〇〇万円とする極度額変更契約を締結し、同法務局昭和四六年八月二四日受付第二四〇六七号をもつて、一番根抵当権変更登記を経由した。

(三)  ところで、門間栄子は、昭和四六年七月三〇日、全国信用金庫連合会との間で、昭和四六年七月三〇日締結の金銭消費貸借契約によつて有限会社門間林産業が全国信用金庫連合会に対して負担した債務を担保するため、門間栄子所有の本件土地、建物について、債権金二、六〇〇万円、利息年9.6パーセント、損害金年一四パーセントとする抵当権設定契約を締結し、同法務局昭和四六年八月二四日受付第二四〇六八号をもつて、順位二番の抵当権設定登記を経由していたところ、渡島信用金庫は、昭和四六年七月三〇日、全国信用金庫連合会との間で、一番根抵当権の二番抵当権への順位譲渡の契約を締結し、同法務局昭和四六年八月二四日受付第二四〇六九号をもつて、その旨の登記を経由した。

(四)  渡島信用金庫は、昭和四六年二〇月二六日、前記信用金庫取引契約に基づき、有限会社門間林産業に対し、金一、五〇〇万円を、支払期日昭和四六年一二月二〇日、利息及び遅延損害金年18.25パーセントと定めて貸付けたが、有限会社門間林産業は、右支払期日に、右借入金を返済しなかつた。

(五)  そこで、渡島信用金庫は、昭和四九年三月八日函館地方裁判所に対し、本件土地、建物及びこれと共同担保(根抵当の目的物)になつている池田正助所有の不動産一筆(但し昭和五〇年一月二〇日三筆に分筆)と有限会社門間林産業所有の不動産八筆(但し、右各不動産についての根抵当権設定登記は、いずれも本件土地、建物についての前記根抵当権設定登記と同時になされたものではない)を目的とし、元金一、五〇〇万円とこれに対する昭和四七年二月二六日から支払ずみまで年18.25パーセントの割合による金員の満足を得るため、根抵当権の実行としての競売を申立てたところ、昭和四九年三月九日右不動産全部につき競売手続開始決定があり、次いで本件土地、建物は一括競売に付され、昭和五〇年一一月一八日の競売期日に抗告人西村鶴吉が本件土地、建物を一括して金四九〇万円で競落し、同月二一日の競落期日に競落許可決定が言渡され、同決定は、同月二八日の経過とともに確定した。

三ところで、前記競売事件記録及び本件異議申立事件記録によれば、競落人たる抗告人が前記競売代金の支払をしないうちに、債務者有限会社門間林産業は、債権者渡島信用金庫に対し、昭和五〇年一二月六日金二、〇〇九万二、五〇〇円を、同月一〇日金一八〇万六、三〇〇円を弁済し、同月一五日、被担保債権の弁済による消滅を理由として、函館地方裁判所に対し、本件競売手続開始決定について異議の申立をし、右申立による同裁判所昭和五〇年(ヲ)第七六三号事件につき、同裁判所は、昭和五一年二月二日、右異議申立を認容し、本件競売手続開始決定を取消し、本件競売申立を却下したので、競落人たる西村鶴吉から、この決定を不服として、本件抗告がなされるに至つたものであることが認められる。

四案ずるに、(根)抵当権によつて担保される債権の範囲は、質権と同じく設定契約によつて定められるべきことであり、(根)抵当権にあつては、その範囲(ないし限極度額)は、すべてこれを登記すべく、登記なき以上はこれをもつて第三者に対抗することができないのを原則とするが、不動産登記法一一七条には登記申請書に競売費用を記載すべきことを命じていない。しかしながら、(根)抵当権の実行には、競売申立手数料、競売申立て記入登記登録免許税、競売実施手数料その他若干の費用を要することは当然であるから、特に登記申請書にこれを記載することを必要としないものとしたものであるのみならず、競売手続が競売によつて完結した場合の競売費用は、競売目的物件所有者が負担すべきものであつて、右競売費用は、売得金の中より先ず優先的に控除して競売申立債権者に交付されるべきものであるから(競売法一五条、三三条二項、三九条参照)、(根)抵当権設定行為をもつて、特に費用を(根)抵当物件所有者において負担しない旨の特約がなされたこと等特段の事情がない限り、(根)抵当権実行のための競売費用は、当該(根)抵当権をもつて担保される債権の範囲に含まれるものと解するのが相当である(大審院判決昭和二年一〇月一〇日大審院民事判例集六巻一一号五五四頁参照)。これを本件根抵当権についてみるに、本件競売費用の負担につき、右の如き特約がなされたこと等特段の事情があつたと認めるに足りる証拠はないから、本件根抵当権実行のための競売費用は、本件根抵当権をもつて担保される債権に包含されるものといわざるを得ない。

五本件競売事件記録及び当裁判所が本件競売手続の利害関係人たる渡島信用金庫を審尋した結果によれば、本件競売申立債権者である渡島信用金庫は、昭和四九年三月八日、本件土地、建物とこれと共同担保となつている前記の外九筆の不動産に対し 根抵当権の実行としての競売を申立てたが、その際、右競売費用として金六万一、〇〇〇円相当の印紙を納付し、郵便物の料金に充てるための若干の郵便切手を予納したほか、同年四月二日、執行官の競売手数料等の支払に充てるため金三〇万円を予納し、さらに、昭和五〇年七月一日から昭和五一年一月二六日までに金六、五〇〇円相当の印紙を納付したこと、競売裁判所たる原審裁判所は、本件競売手続のため、昭和四九年三月九日から昭和五一年一月二六日までの間に前記予納にかかる印紙をすべて使用(登録免許税納付)したほか、右金三〇万円の予納金の中から、昭和四九年五月一五日本件土地、建物の評価を命じた鑑定人新井田政光に対する報酬として金八、〇〇〇円、同月一八日本件土地、建物を除くその余の九筆の不動産の評価を命じた鑑定人成沢惣二に対する報酬として金二万六、〇〇〇円、同月二四日本件土地、建物外九筆の不動産に対する賃貸借の取調べを命じた執行官竹村幸次に対する手数料として金一万七、三三七円、昭和五〇年一一月一九日本件土地、建物の競売を実施した執行官八巻一雄に対する競売手数料として金九万〇、四〇〇円、以上合計金一四万一、七三八円の支出をし、右金額の競売費用を要したこと、他方、債務者有限会社門間林産業は、競売裁判所たる原審裁判所を経由せずに、債権者渡島信用金庫に対し、昭和四九年三月二七日本件競売申立費用印紙代として金六万五、一八〇円を任意弁済したこと、債権者渡島信用金庫は、昭和五〇年七月一日当事者間に示談が成立したことを理由として、池田正助所有の不動産一筆(但し、昭和五〇年一月二〇日三筆に分筆)に対する競売申立を取下げたこと、債務者有限会社門間林産業は、債権者渡島信用金庫に対し、競売裁判所たる原審裁判所を経由せずに、昭和五〇年一二月六日金二、〇〇九万二、五〇〇円を、同月一〇日金一八〇万六、三〇〇円を任意弁済したので、債権者渡島信用金庫は、同月一五日本件土地、建物以外の有限会社門間林産業所有の不動産八筆に対する競売申立を取下げたこと、以上の事実が認められる。そして、右認定の事実によれば、有限会社門間林産業が昭和五〇年一二月六日と同月一〇日に、渡島信用金庫に対して弁済した前示金員は、本件競売の請求債権の元本、利息、遅延損害金を弁済したものと認められ、昭和四九年三月二七日に渡島信用金庫に対して本件競売申立費用印紙代として弁済した前示金六万五、一八〇円は、本件競売手続費用の一部を弁済したものと認められるのであるが、これによつて債務者有限会社門間林産業が債権者渡島信用金庫に対して、本件根抵当権実行のための競売手続費用の金部を弁済したものと認め得ないことは、計数上明らかである。他に、渡島信用金庫が有限会社門間林産業に対して本件競売手続費用の全部を弁済したことないしはこれを免除したことについては、これを認めるに足りる証拠はない。

六右のとおりであつて、本件根抵当権によつて担保される競売費用がなお残存していることが明らかであるから、本件根抵当権が消滅してしまつたものということはできず、従つて弁済未了の競売手続費用を取立てるために本件競売手続は、なお、これを続行すべきものであるから、有限会社門間林産業の異議申立を認容し、本件競売手続開始決定を取消し、本件競売申立を却下した原決定は、違法であり取消を免れない。

なお、抗告理由について一言するに、抗告人は、本件競落許可決定がすでに昭和五〇年一一月二九日確定しているのにかかわらず、競売裁判所である原審裁判所が代金支払期日を指定せず、故意に抗告人の代金支払を遷延している旨主張するが、本件競落許可決定が昭和五〇年一一月二八日の経過とともに確定したことは前判示のとおりであり、かつ、本件競売事件記録によつても、競売裁判所である原審裁判所が代金支払期日を指定したものとは認められないが、競落許可決定が確定した後は、競落代金支払期日前であつても、競落人は、競落代金を納付することができ(競売法三三条一項前段参照)、競売裁判所もその納付を拒絶し得ないものと解するのが相当であるから、競売裁判所である原審裁判所が代金支払期日を指定しないことをもつて、原決定を非難する抗告人の主張は、失当と言わざるを得ない。

七よつて、本件抗告は理由があるから、民事訴訟法四一四条、三八六条を適用して、これを認容することとし、手続費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

物件目録(一)、(二)〈省略〉

抗告の理由〈省略〉

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